これも何かの縁

ピアノとマンガの道を歩んできたハヤシのエッセイ・イラスト・物語集

普通に生きるのは難しい☆クレイジー村田沙耶佳おすすめ作品・勝手にランキング『コンビニ人間』『殺人出産』『消滅世界』

コンビニ人間』で芥川賞をとった村田沙耶佳の作品について語ろう。ネタバレ注意。

目次じゃ!

サイコパス?普通じゃない人たちの世界

普通の人間は普通じゃない人間を裁判するのが趣味『コンビニ人間

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間

コンビニ人間

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

※内容【36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、
完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は
「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。現代の実存を問い、正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説】

主人公は恋愛経験はなく『普通とされている感情』が欠落している36歳の独身女性。世間の価値観からずれており、一般の人たちとの共感力のなさから『サイコパス』扱いされてしまうのだろうか、アマゾンのレビューには「主人公はサイコパスのような、この世に生まれたはいけない人間」という恐ろしい感想まであったようだ。(その意見に共感したのか、たくさんの「いいね」もついたようで)

ま、いいんじゃないの、たぶん主人公のような人間は、結婚せず子も持たないだろうから、そこで淘汰される。サイコパス性質を受け継ぐ子孫は残らない。

劇中でも「その腐った遺伝子、この世界にひとかけらも遺さないで」と言われ、主人公はすんなりと納得。「私の遺伝子はうっかりどこかに遺したりせずに処理しよう」と決意する。

いやいや、ナチス思想を否定できないね。自分とかけ離れている価値観を持つ人間を嫌う。それが人間の性なのだろう。

※オタクが嫌いな上野千鶴子氏も『平和に消えていってほしい(淘汰されて欲しい)』とナチス発言をされていたことを思い出すぜ。

では、コンビニ人間より共感した言葉を記しておこう。

「普通の人間は、普通じゃない人間を裁判するのが趣味」
「この世界は異物を認めない」「皆が僕の人生を強姦する」
「自分の人生を強姦されていると思っている人は、他人の人生を同じように攻撃すると少しは気が晴れる」
「自分の人生に干渉する人を嫌っているのに、その人たちに文句を言われない生き方を選択するんですか?」

普通の人間という生き物を演じるのは難しい。

36歳の恋愛経験もない独身・仕事はコンビニのバイト、世間の価値観から見れば落ちこぼれ。でも本人はさほど気にしていない。承認欲求が低いのだろう。

それでも、この世界の正常な部品になろうとして、普通の人間を演じようとしているところがあり、何とか世間に合わせようとしている。

だが、普通の人と思考回路が違うため、どうしてもズレてしまう。家族は主人公を治そうとするものの、うまくいかず、家族だけがストレスを抱えてしまう。でも主人公から見れば、勝手に心配をし落胆する家族が理解できない。

それでも自分を心配してくれる周りや家族のために、世間が良しとする『結婚』をしようと好きでもない男と一緒に住み、形だけの婚姻届を出そうと考える。

けど男からの干渉を受けて、自分を見失いそうになり、やっぱり自分らしい道を歩むことにする。男は自分の人生にとって不要な人なので切り捨て、コンビニ人間として生きるのだ。

普通の人たちとの妥協点

とまあ、世間に馴染めない主人公だけど、世界の正常なる部品としてコンビニバイト員になって生きるのだから、世間を拒絶しているわけでもないのだ。

というか、世間を拒絶して生きるのは不可能。世界を拒絶したいなら自殺するしかない。

主人公にとっての世間との妥協点が、就職せず結婚せず生殖せず、コンビニバイト人間として生きることなのだ。

主人公は思考回路が普通の人たちと違うため、心から普通の人と交わることはできないが、自尊心と承認欲求が低いのでそれも苦にならない。普通から落ちこぼれても、「気持ち悪い、お前なんて人間じゃない」と言われても、それを受け入れ、あっけらかんと生きていける。孤独ではあるが、それを不幸だと思わない。

逆に自尊心や承認欲が強いと、自分が世間から弾かれ、落ちこぼれていることを認めたくなく、自分を上位に置きたいがため他者を見下したり攻撃的になったり、それが皆を呆れさせ失笑を買ったりして、劣等感をこじらせてしまい――周りに迷惑をかけ厄介な存在となる。

まあ、主人公のように他人にどう思われようと気にせずに、周りの人間から距離を置ける生き方ができれば苦しい思いをしなくて済むが、ほとんどの人はそこまで割り切れず、周りの価値観に合わせようとして失敗し劣等感を募らせ辛い思いをすることになる。それが『コンビニ人間』に登場する『白羽』だ。主人公と同じく社会の落ちこぼれだが、主人公ほどに世界を突き放すことができない。白羽のほうが人間らしいが、その分、周りから嫌われ、眉をひそめられる。

普通の人たちと普通になれない人たちとの対比が描かれている『コンビニ人間』だが、世界と何とか折り合いをつけることができる主人公『古倉』と、それができず皆から嫌われ社会のお荷物となる『白羽』の対比もテーマなのだろう。

ところで「気持ち悪い」て言葉、男に向けられることが多いが、小説作品の中では割と女キャラに向けられることがあるよな。この村田沙耶佳『コンビニ人間』、椰月美智子『恋愛小説』『忘れない夏』、有川浩『別冊図書館戦争2』、辻村深月『盲目的な恋と友情』など……あらら、皆、女性作家だね。

コンビニ人間』についてアマゾンより共感したレビューも紹介しておこう。

以下転載
この本のレビューで「主人公はサイコパスのような、この世に生まれたはいけない人間なんだ」と書いている方がいて、その感想に「いいね」が沢山ついていました。
自分はそれを見て複雑だったのですが、そんな感想を持てる人はこの世界では多分「普通の人」側の人間であり、そんな人が正直羨ましくもあります。
私は多分主人公程極端ではないけど、主人公側の少数派の人間です。誰にも迷惑をかけていないし、自分は幸せなのに それでも「そんな事ではいけない」と口を出してくる人がいます。そのことにずっと悩んでいました。自分はいけない生き方をしているのか・・・?
でもこの本を読んで救われました。
ラストの主人公のふっきれが本当に気持ちがいいです!
自分は「少数派」側の人間で肩身が狭く生きている方におすすめしたい一冊です』

普通じゃない人が嫌われる理由

真っ当で普通の人は、自分の価値観が壊されるのが嫌。自分たちの平和な暮らしが脅かされる感じがするのだろう。だから、外れ者は矯正したい。あるいは排除したい。

外れ者は普通の人にとって異物だ。異物を排除するのは一種の防衛本能。

理解不能なものは気持ち悪い。普通の人が抱く当然の感情だ。

で、普通のまともな人たちがルールを作り社会を構成してくれるからこそ、そこそこ豊かで平和な生活ができるのも事実だ。

なのでお互い、できるだけ距離をとって無関心でいることが平和に暮らせる唯一の方法。オタクな自分も嫌われ者であることを自覚せねばの~。で、普通の人になれなかったワシだって「気持ち悪い、こいつは異物だ、関わりたくない」と思う人間がいるわけで、お互い様なのだ。

ま、社会が大多数の普通の人で構成されている以上、普通じゃない人はそのことをわきまえ、できるだけ普通の人の邪魔にならないよう、迷惑にならないように生きていくしかない。

安楽死自由化

ただ、こうも考えてしまう。普通な人たちに嫌われ疎外される『普通じゃない人』に世界を拒絶する権利を与えてほしい。安楽死だ。自分の意思に関係なく、この世に強制的に生み出されてしまったのだから、この世とさよならする権利を与えてもいいのではないかと。

クレイジー作家と呼ばれる村田沙耶佳氏もさすがに自殺を肯定するようなことは書いていない。が『コンビニ人間』を読み、世界を拒絶する権利があってもいいよな、と思ってしまった。主人公は世界の正常な部品となって生きることができるが、それができない人間はどうすればいいのか?

たしかに白羽はどうしようもない人間だが、普通に生きる真っ当な人から「人生終了」とジャッジされたりしている。

ひとつも良いところがない最低なキャラに描かれている白羽の言動を見て、『中年童貞』を思った。

ルポ 中年童貞 (幻冬舎新書)

ルポ 中年童貞 (幻冬舎新書)

 
中年童貞 (扶桑社新書)

中年童貞 (扶桑社新書)

 

自尊心と承認欲求が低ければ『主人公・古倉恵子』のように生きていけるけど、自尊心と承認欲求が高いと『白羽』のように皆から嫌われ、仕事ができず暮らしもままならず惨めな人生となりそう。生活保護受給資格はそう簡単に得られないだろうし。

自由意思によって人生を終了できる権利=世界を拒絶する権利=楽に世界から逃げる方法=安楽死自由化があるといいよなあと個人的に思う。ワシもその権利を享受したい。

クレイジー村田沙耶佳の世界

村田沙耶佳氏は「世間の価値観から大きく外れた異常者ともいえる人間」を描くのが得意そう。『普通・正常・良識』に対するアンチテーゼ的なものを書く小説家だ。
よって『普通の人たちが良しとすることに共感できない人・価値観から外れた生き方や考え方をする人』を主人公にすることが多い。  従って、普通の感覚を持つ普通の人には共感しづらいかもしれない。

そんな村田沙耶佳氏は周りの作家(朝井りょう氏など)から「クレイジー沙耶佳」と呼ばれているらしい。外見はふんわりしたおとなしい感じのお嬢さんに見えるけど。

では『コンビニ人間』のほかのクレイジー沙耶佳作品をいくつか紹介しよう。

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

※内容【「産み人」となり、10人産めば、1人殺してもいい──。そんな「殺人出産制度」が認められた世界が描かれる】

タダイマトビラ (新潮文庫)

タダイマトビラ (新潮文庫)

タダイマトビラ(新潮文庫)

タダイマトビラ(新潮文庫)

タダイマトビラ

タダイマトビラ

※内容【自分の子どもを愛せない母親のもとで育った少女は、湧き出る家族欲を満たすため、「カゾクヨナニー」という秘密の行為に没頭する。高校に入り年上の学生と同棲を始めるが、「理想の家族」を求める心の渇きは止まない。その彼女の世界が、ある日一変した】

『殺人出産』はホラーじみていて面白かった。一気読みできた。

一方『タダイマトビラ』はワシはちょっと共感しづらく、展開が冗長でさほど面白いとは思えなかった。

ちなみにワシが好きな村田沙耶佳作品は『コンビニ人間』以外では『しろいろの街の、その骨の体温の』じゃ。主人公の心情とリンクさせた街の風景描写が素晴らしかった。そして、この作品は性的なものを扱いつつ、サイコパス的なものもクレイジーさもなく、読後感も良い。村田沙耶佳にしてはめずらしい……。

しろいろの街の、その骨の体温の

しろいろの街の、その骨の体温の

しろいろの街の、その骨の体温の

しろいろの街の、その骨の体温の

※内容【クラスでは目立たない存在の結佳。習字教室が一緒の伊吹雄太と仲良くなるが、次第に彼を「おもちゃ」にしたいという気持ちが高まり――女の子が少女へと変化する時間を丹念に描く】

婚外恋愛は当たり前・社会が子を育てる『消滅世界』

村田沙耶佳作品の中で、さほど面白いとは思えなかったものの『消滅世界』についても語っておこう。 

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

※内容【セックスではなく人工授精で、子どもを産むことが定着した世界。そこでは、夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、「両親が愛し合った末」に生まれた雨音は、母親に嫌悪を抱いていた】

『消滅世界』の世界設定、は婚外恋愛が当たり前であり、結婚相手とは『交尾』はしない。結婚相手は家族であり、家族と交尾することは近親相姦みたいなものとして、忌み嫌う。
従って、子をもうける時は体外受精をする。

※『消滅世界』ではあえて『交尾』という言葉が使われている。

そして、子どもを平等に育てる特区が作られる。くじ引きで、卵子精子の組み合わせを決め、これまた体外受精で生ませるのだ。
特区の住人、男性を含め皆が『おかあさん』となる。

よって子どもたちは公=『平等な環境』の下で住民ら皆で育てる。貧富の格差もなく、虐待もない。
家族は解体され、皆が「おかあさん=親」なので、誰かに負担が偏ることがなく、育児に疲れることもない。おかあさんだからおとうさんだからと個々に責任を負わなくてもいい。平等を良しとし、格差を嫌うリべサヨの理想世界だ。

村田沙耶佳作品・勝手にランキング

ワシの独断と偏見で、面白かった順に村田沙耶佳作品を並べてみよう。

コンビニ人間』>『殺人出産』>『しろいろの街の、その骨の体温の』>『タダイマトビラ』=『消滅世界』

ポイントは、読みやすいか、一気読みできたか、共感できたか、だ。

村田沙耶佳デビュー作となる『授乳』、そして『ギンイロノウタ』は短編作品なのでランキングに入れてないが、入れるとしたら『しろいろの街の、その骨の体温の』より下、『タダイマトビラ』=『消滅世界』よりは上になるかな。あくまでもワシが面白く読めたか否かである。

授乳 (講談社文庫)

授乳 (講談社文庫)

授乳 (講談社文庫)

授乳 (講談社文庫)

授乳

授乳

ギンイロノウタ (新潮文庫)

ギンイロノウタ (新潮文庫)

ギンイロノウタ

ギンイロノウタ

何はともあれ、世間からずれている人、外れている人、生きづらい人、息苦しい人は村田沙耶佳作品を読もう。特に『コンビニ人間』はおすすめじゃ。

他者のジャッジを気にせず、承認欲求をこじらせずに、自分に合った生き方ができるといいよね。