ジブリつまらなくなったよな☆『獣の奏者』『風立ちぬ』VS『とある飛空士への夜想曲』
まだまだ語るぞ『とある飛空士への夜想曲』
※前回・前々回の記事はこちら↓
まずは、一般的に話題になった作品『獣の奏者』『風立ちぬ』『土獏の花』と『とある~夜想曲』を較べっこしながら語ってみよう。
これらの作品を知らず、これから読みたい、観たいという人はネタバレするので、結末は知りたくないという人はここで引き返してくだされ。見ちゃダメだ。
目次じゃ!
ラノベ『~夜想曲』VSジブリアニメ『風立ちぬ』
『風立ちぬ』がつまらない理由
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戦闘機(零戦)が出てきて、ヒロインが死んでしまうといえば、ジブリアニメの『風立ちぬ』だけど――ドラマ性がまるでなく、本当につまらなかった。おまけに主人公の声が素人ぽくて(エヴァの庵野監督だからな)、あまりの酷さにびっくりした。
キャラに感情移入できないし、ヒロインも死ぬのに、何も感じなかった。
普通、主要キャラの死って、もうちょっと心をゆさぶるものだが、まるでなし。とにかく退屈だった。
終わり方も……「え? これで終わり?」とあっけなかった。
『ハウルの動く城』からジブリはつまらなくなったな、と思っていたけど、まさかこれほどとは。
ヒロインの死がこんなに心に響かなかった作品もめずらしい。
主人公も悲しんでいる様子が描かれなかったし、あまりに淡々としすぎ、人間味がうすく、全く共感できなかった。
というか、何に共感していいんだか分からないお話だった。
戦争の悲劇もそれほど描かれていない。
それなのに『戦争の悲劇』を主人公は口にする。その上、「飛行機=戦闘機を作ったのは、ただ夢を実現したかった」とのたまう。人殺しの戦闘機を作ったつもりはないらしいが、何しろ葛藤している姿も見せないから、訴えるものが何もなかった。
このアニメ『風立ちぬ』は一体、何を描きたかったんだろう? テーマも分からない。
戦争や死、恋愛を扱いながら、これほど退屈でつまらない、心に全く残らない、ドラマ性のない物語はちょっと他に見当たらない。
『永遠のゼロ』のライトノベル版と言われる『とある飛空士への夜想曲』も同じく、戦争、恋愛、死を扱っているが――あえて正直な評価を。
『~夜想曲』>>>>>乗り越えられない壁>>>>>ジブリの『風立ちぬ』
※『>』の数、もっと増やしたいくらいだ。
『風立ちぬ』の主人公とヒロインの魅力のなさ
よくよく考えたら、ジブリ『風立ちぬ』の主人公・堀越って、妻の死に目に会ってないのでは?
あの終わり方はそうだよな。
しかも妻がサナトリウムに帰った後、会いに行ってないのでは? 妻は「自分が病気でやつれて、ひどい姿になるのを見せたくない」と言って、堀越の許を去ったのだから。
で、堀越はそんな妻の気持ちを尊重しているということにしたのか、妻を追いかける描写はなかった。
それからも、おそらく堀越は飛行機作りに没頭し、夢にまい進して過ごしたのだろう。
つまり、堀越がその後、妻を見舞ったと想像しにくい内容だった。
うわあ、なんてひどい男なんだ。夫なのに、死に向かっている妻を放っておくなんて。それがたとえ妻の望みであっても、ちょっとそれはないんじゃない?
一方『~夜想曲』の千々石は、生き残って恋人ユキと暮らすことより、戦うことを選択する。
戦うことを優先した千々石に、ユキは失望する。
千々石は、会ったら余計に傷つけるとしてユキと距離を置こうとするものの、それでも出立の前、ユキに会うか会わないか迷いに迷う。
そして最終的に『会う』という選択をした。
そう、ちゃんと人間らしい『迷い』が描かれていた。
自分の死後、恋人が強く生きていけるか、思いやっていた。
しかし、ジブリの『風立ちぬ』の堀越の場合、そういった迷いは一切、描かれてない。
妻が堀越に黙ってサナトリウムに帰った後、堀越は何を思ったのかも描かれない。
またその堀越の妻も、自分の死後、千々石のように遺された人たちに思いを寄せる描写はない。ただ「自分のひどい姿を夫に見せたくない。きれいなままの姿だけを夫の記憶に残したい」と自分のことしか考えてない。
で、夫に黙って姿を消すのだ。
もう、人間度から言って――
『~夜想曲』の千々石>>>>>>>>『風立ちぬ』の堀越の妻
もちろん、ヒロイン同士で比べるなら
『~夜想曲』のユキ>>>>>>>>>『風立ちぬ』の堀越の妻
※「>」の数、もっと多くていいくらいだ。
……話を元に戻そう。
『風立ちぬ』主人公・堀越二郎の、あのラストを見た限り――
堀越は出て行った妻を追いかけもせず、会いに行くこともせず、おそらく死に目にも会ってない。
あの淡々とした感じで妻の望む通りにさせた。つまり妻が生きている間は会わなかった、妻の死に立ち会わなかった、と受け取られても仕方ない。
本当に呆れるほど、キャラの人間味がうすい物語だった。迷いを描いてこそ人間ドラマなのに、そういったところを排除したキャラには全く魅力を感じなかった。
結論。
男として・人間としての魅力
千々石>>>>>>乗り越えられない壁>>>>>堀越
※『>』の数、もっと増やしたいくらいだ。
ラノベ『~夜想曲』VS文芸小説『獣の奏者』
絶大なインパクト・主人公の死
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『獣の奏者』――アニメのほうでは主人公エリンの少女時代しか描かれなかったので、多くの人はその後の話を知らないかもしれないが――小説のほうは、大人になり結婚し子持ちとなったエリンが登場し、何ということかラストは死んでしまうのだ。
主人公や主要キャラの死というのは受け手に相当なインパクトを与える。
『獣の奏者』(完結編)は特にそうだった。エリンの死は予見できなかったので、かなりインパクトが強かった。アマゾンのレビューにも「ショックだ」という感想が多く見受けられる。
一方で『~夜想曲』や『永遠のゼロ』は主人公の死を予見できる。
「助かってほしいなあ」という気持ちがあるので、ショックは受けるが――覚悟しながら読み進めることができる。
しかし『獣の奏者』の主人公の死は予想外であり、「えええ? うそ~」という感じで、それはもう大ショックだった。
死にざま『~夜想曲』の千々石 と『獣の奏者』のエリン
『~夜想曲』では千々石の恋人ユキが、『獣の奏者』ではエリンの息子が――『死を覚悟している愛する人』のことが心配で、それぞれに心を痛めていた。
エリンの息子は「お母さんは、僕のことなんか捨てて、死んでしまうんだ」と言って、自暴自棄になりかかる。
そんな息子に、エリンは『自分は生きる』と約束する。なので本当に死ぬとは思わなかった。
『~夜想曲』の千々石も――「戦いで死ぬのは本望」と言いつつも、恋人ユキに「お前のところへ帰る」と口にする。なので、ひょっとしたら千々石は生き延びるのではと、この時点では淡い希望を持たせてくれていた。
けど、結局、彼らは恋人や家族、国のために、または多くの人の命を救うために、自分を犠牲にしてしまう。
同じ道をたどった『獣の奏者』『~夜想曲』の主人公だが、では、どっちの主人公により惹かれたか? と言うと――
うむ、ワシ的には僅差で『千々石』だ。
千々石>エリン
その理由は――
『獣の奏者』のエリンは、あまりに『いい人・理想的な人・善人・立派な人』過ぎて、欠点が見当たらなかったからだ。
対して『~夜想曲』の千々石は、自分勝手な面がある。恋人を傷つけてでも戦うほうを選ぶ男。ま、『ベジータ系』だからな。欠点がけっこうある。
なので逆に、千々石のほうがエリンよりも魅力的に思える。
欠点のないキャラにはあまり惹かれない。
テーマについては『~夜想曲』も『獣の奏者』も素晴らしい。甲乙つけがたい。
人によっては『~夜想曲』は戦争美化・特攻を美化しているとして眉をひそめるだろう。けれど『獣の奏者』だって、エリンがやったことはある種の『特攻』である。
なのに『獣の奏者』は反戦を謳った話として、多くの人に受け入れられているようだ。
でも『~夜想曲』だって戦争の愚かしさを訴えているし、『永遠のゼロ』も特攻作戦を批判している。が、なぜか『獣の奏者』とは違う扱いをされている気がする。
ワシ個人による作品としての評価では『~夜想曲』と『獣の奏者・完結編』は完全に並ぶ。ちなみに僅差で『永遠のゼロ』よりも『夜想曲』のほうが好き。
ああ、なのに、なんで『~夜想曲』は、『永遠のゼロ』『獣の奏者』ほどに話題にならないのだ?
やっぱ「ラノベだから一般の人が手に取らない」っていうのもあるのかもしれない?
ラノベなのに『とある飛空士への夜想曲』が気になった理由
そういえばワシも、『ラノベ』はよほど話題にならない限りチェックすることはない。
なので『とある飛空士への夜想曲および追憶』との出会いも偶然と言えば偶然だった。
中山七里の『追憶の夜想曲』を検索していたら、たまたま『とある~追憶』『とある~夜想曲』がひっかかった。
※ちなみに『追憶の夜想曲』もおすすめじゃ。
もし『とある~夜想曲』が【よくある萌えキャラ女の子のラノベ風イラスト表紙】だったら、ワシは興味を示さなかっただろう。
が、『とある~夜想曲』の表紙がそうじゃなかったので目に留まった。
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もちろん、これ、コミックの表紙なら普通だ。けど『ラノベ』では異例なのだ。(男性読者が対象の場合ね)
『~夜想曲・下巻』に至っては『女』がいない。
いや、『男のみ』だとしてもキレイなイケメンならともかく……男臭いオトコがピンで表紙を飾るなど、ラノベ界ではかなりめずらしいのでは。
この『~夜想曲』の表紙に描かれている男=千々石を見て、ドラゴンボールのベジータを大人っぽくした感じに思え、性格もおそらくベジータタイプだろう、と踏んだ。
言うなれば『青年漫画に近い雰囲気』を感じたので『とある~夜想曲』に興味を持ったのだ。
パッと見、千々石は20代後半に見える。
ヒロインも、いわゆる少女ではなく『大人の女性』だ。
――ということで『大人っぽい物語』を期待させてくれた。これは『萌えキャラな女の子たちがたくさん登場するよくあるラノベではない』のではと。
だが『~夜想曲』について調べてみると、『~追憶』を先に読めという意見が多かったので『~追憶』から読んでみた。1巻で終わるというのも大きかった。
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ここで、もし『~追憶』がつまらなければ、ワシは『~夜想曲』を読まなかっただろう。
が『~追憶』に感動したので、これなら『~夜想曲』を読んでみたいと思い、『夜想曲』を読んでみたら、まあ、なんということでしょう~。『~追憶』よりも感動した、すばらしい、という結果になったのだった。
ラノベ『~夜想曲』VS文芸小説『土獏の花』
キャラはたくさん死ぬのにつまらなかった『土獏の花』
『とある~夜想曲』が感動的だっただけに、ほかの戦闘系の小説がさほどおもしろく思えなくなってしまった。
自衛隊員を主役にした戦闘もの小説『土漠の花』もつまらなかった。『~夜想曲』の足元にも及ばない。
この『土漠の花』、知らない人のほうが多いかもしれないが、新聞に載っていた宣伝広告でそうそうたる人たちが褒めていた。
――あの見城徹氏は号泣(まあ、見城さんはこの本の出版元だから当然として)、秋元康氏は絶賛――
う~ん、ワシの感覚がずれているのか? 全く泣けなかった。
『土漠の花』の場合、主要な登場人物が戦闘で次々に死ぬのだけど、心に残らない。何というか、あんたら死に過ぎ。一人の女性を救うために何人死んでいるんだ? とツッコミ入れながら読んだ。
『~夜想曲』では主人公・千々石の死が分かっていたにも関わらず衝撃的で心に残っただけに……この差は何なんだろう、と考えたのだが――
おそらくキャラクターの描き方で、密度の違いが出た感じがする。
そう、実は『とある~夜想曲』も、主人公・千々石以外のキャラの死については、ワシはあまり心に残らなかった。
下巻から登場する千々石の同期2人の死にいたっては、あっけなく思った。
上巻から登場していた千々石の部下2人の死についても、「ああ、部下が死んだか。これでもう千々石の死は決まったか」と、まずは千々石のことが心配になってしまった。
キャラクターがどれくらいの濃さで描かれているかで『死』のインパクトも違ってくるのだろう。
というわけで、ワシの正直な評価は――
『とある~夜想曲』>>>>>超えられない壁>>>>>『土漠の花』
※『土漠の花』は主人公は死なないけど、仮に主人公が死んだとしてもさほど心は動かなかっただろう。
とまあ、好き勝手に語ってしまったが――結局、何が言いたかったのかというと、なぜ『とある飛空士への夜想曲』が、『獣の奏者』『永遠のゼロ』『風立ちぬ』ほどに世間の話題にならなかったんじゃ~? ということだ。
物語の終わり方
『主人公の死=バッドエンド』とは限らない
作家の宮本輝氏の言葉(産経新聞インタビュー記事より)を紹介して終わりにしよう。
『勇気や希望を与える物語でありたい。暗い小説は嫌い』
「長い長い小説を読んで、最後に皆が不幸になったり、別れ別れになったり、というような物語は読みたくない。基本的に『ああ、よかった』と思えるハッピーエンドが好ましい」と宮本氏は発言されていた。
では、主人公が最後に死んでしまう物語はどうなのか?
うむ――たとえ主人公は死んでしまっても、その周りの人たちの命が救われ、主人公の死は決して無駄ではなかった、という感じであれば、読み手はショックではあるが、納得できるのではないだろうか。
『とある飛空士への夜想曲』『獣の奏者』『永遠のゼロ』が、まさにそれだと思う。