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医師兼作家・知念実希人祭り☆おすすめ知念作品ランキング「レゾンデートル・誰がための刃」「優しい死神の飼い方」「改貌屋・リアルフェイス」「祈りのカルテ」「崩れる脳を抱きしめて」ほか

追記

『レゾンデートル』、文庫本が出たようじゃ。

レゾンデートル (実業之日本社文庫)

レゾンデートル (実業之日本社文庫)

 

本文

今をときめく医師兼作家の知念実希人氏のデビュー作『レゾンデートル・誰がための刃』を読んだ。

※医師作家って多いよなあ。久坂部羊海堂尊帚木 蓬生、古くは森鴎外北杜夫など。その中で一番テンポよくサクサクと読めるのが知念実希人氏の作品だと思う。小説を読み慣れていない初心者におすすめできる。

誰がための刃 レゾンデートル

誰がための刃 レゾンデートル

 
レゾンデートル

レゾンデートル

 

ちなみに『レゾンデートル』とは、自身が信じる生きる理由、存在価値を意味するフランス語の「raison d'etre」をカタカナ表記した語。 他者の価値と比較して認められる存在価値ではなく、あくまで自己完結した価値を意味する。

この作品は漫画チックというか劇画チックで……ベタな展開ならではこそのおもしろさってあるよな。
作り手はベタな展開を恥ずかしがったりしてはいけないのだな。

ということで今回はこの『レゾンデートル』を中心に知念作品『あなたのための誘拐』『螺旋の手術室』『仮面病棟』『時限病棟』『優しい死神の飼い方』『改貌屋(リアルフェイス)』『神様のカルテ』『崩れる脳を抱きしめて』について語ろう。

目次じゃ!

以下、ネタバレ注意。

知念実希人情報

医師・知念実希人氏の経歴

知念さんは祖父も父も医師という医師一家。1978年沖縄生まれ。東京在住。慈恵会医科大卒の内科医。

医師として働いているのは金曜日と日曜午前だけ。父の個人医院を手伝っています」とのこと。仕事時間は作家業に割いているようだ。で、息抜きに総合格闘技のジムに通っているんだそうだ。格闘技が好きなのかあ。

なるほど~、だからレビュー作『レゾンデートル』がハードボイルド的・剣道医師の肉弾戦となったのかあ。

デビュー作『レゾンデートル・誰がための刃』

『レゾンデートル』あらすじ

主人公は32歳の剣道が上手いイケメン外科医。
末期の胃癌にかかり、あと数か月の命。

ま、あれこれあって、身寄りのない不幸な生い立ちの歌の上手い美少女を助ける。

んで、この歌姫美少女と恋仲になる。

もちろん、そのほかにも、主人公を想ってくれる同僚の美女医師もいたりする。

美少女も美女医師もあれこれ世話を焼いてくれる。

んが、しっかり者の美女医師は同僚であり、主人公の医学生時代の元恋人という設定なので、おそらく同じ32歳であろう……歳はいっちゃっているし、男としてはやはり比護欲をそそられる17歳の美少女がいいのだろうなあ。

『高収入の頭のいいしっかり者・頼れる大人な30代美女』よりも『歌とお料理上手な庇護欲そそられる10代の美少女』――これが、日本人男性の本音であろう。当然、32歳主人公も17歳美少女を選ぶ。15歳差もなんのその。

この17歳少女、最初こそ主人公に対し『丁寧語』を使っていたが、すぐにタメ語になり、お互い名前を呼び捨てにするよう提案し、大人に対しけっこう失礼な言葉遣いをしたり――友だち言葉=対等となる。ライトノベルによくいるような感じの少女で、主人公との会話は漫画・ライトノベルのようなノリで、15歳差を感じさせない。

そして、あれこれあって結ばれる。
んで、ななんと、美少女は処女だった。(ちなみに結ばれた時は美少女は18歳になっており、淫行条例にはひっかからない)

「初めてなの」と18歳になったばかりの少女
「やさしくする」と32歳の医師(しかし、避妊せず)

定番のこのセリフ――いやいやあ、これを照れずに書ける作者にワシは敬意を表するぞ。

んで、あれこれあって、拉致された美少女を救うため、戦闘のすえ、自らの命を犠牲にする末期癌の32歳医師主人公。

おお~、医師が肉弾戦するのか~。

うむ、イケメンで医師(頭が良くて高収入)で、おまけに剣道が上手くて運動神経も抜群な、最強な主人公じゃ。
そんなすごい人が若くして死ぬのはもったいないの~。

でも大丈夫。
18歳となった美少女のお腹には、主人公の子が宿されていたっ。

っと、お約束なこのパターンもありふれているが、笑ってはいかん。
ただ、死ぬのが分かっているのに、避妊せず、18歳の少女を妊娠させるとは、32歳医師主人公はちょいと無責任じゃの。

けれど、美少女に2000万円を遺したので(さすが医師)、なんとかやっていけるだろう。その後、美少女は生まれてきた子(男の子じゃ。ま、たいてい、そうだよな)を大切に育てる。

いい女にモテモテ、美少女をはらませ、戦闘の末、愛する美少女を守り、己の人生を全うする主人公。

――というベタベタな展開でテンポよく話を進められている、一気読みできる小説だ。

学情報が売り・生きる屍状態から劇的に回復する方法

この小説の売りは、なんといっても癌についての医学・医療情報だ。

末期胃癌に冒された32歳の医師主人公。
拉致された美少女を救うため、最期の戦闘にのぞむ。

が、主人公はすでにがん性腹膜炎による腸閉塞を起こし、モルヒネの投与で痛みをおさえていたがその副作用で倦怠感と眠気で、生きる屍状態だ。腹水がたまり妊婦のようなお腹で、膨満感が辛い。

その生きる屍状態から体力を回復させるために――まずは腹水を抜く。が、腹水を抜くと、血管内脱水を悪化させ、血圧が急低下する。それを『アルブミン』という生物製剤を大量に使って、防ぐ。

んで、ステロイドとデカドロンを大量に使用。
癌による炎症や倦怠感を一時的に取り除くという。

これで、生きる屍から『激しい戦闘に耐えられる体』になるらしい。

医師である知念さんがそう書いているのだから、実際、そうなのだろう。

もちろん、この回復状態は一時的なもので、2、3日経てば反動によりさらに病状は悪化する。
けれど主人公にとっては、数時間、体が思うように動けばそれでいいので、2,3日後のことなど知ったことではないのである。

ここでふと思った。

一時的にそこまで劇的に体力が回復し、それが2,3日持つのであれば、ベッドの上で生きる屍となって数週間生き長らえるよりもずっといいと思う人、けっこういるのではと。

ワシも数週間生き長らえるために、管につながれ辛く苦しみながらも生きる屍となってベッドで過ごすよりも、数日、自分の思うがまま心地よく楽しく過ごせるほうがいいよなあ。んで、その反動でもっと辛く苦しい思いをしないとならないのであれば、その時点で安楽死したい。

なぜ、苦しみながら死なないといけないのだろう? それを回避する方法があるというのに。一時的とはいえ、劇的に回復する方法もあるというのに。

が、無理に回復させてもその反動でさらに苦しむことになり、命を縮めることになるので、その方法を使うことは許されていないのだ。

余談・安楽死自由化

ここからは物語と関係ないワシの考えであるが――
やっぱ安楽に死ぬ自由・権利がほしいよな。

自裁と称して自死したジャーナリスト・西部邁さんも、結局は自殺を手伝わせてしまった知人を「犯罪者」にしてしまった。
自殺は、周囲に迷惑がかかる。死体の処理も大変だ。警察の方によけいな仕事をさせてしまう。

それに自殺は苦しく痛い思いをするかもしれないし。
失敗し、生き残って障害を負ったら悲惨だ。

安楽死自由化を望む。
もちろん、希望する本人がその高いコスト(審査や処理にそれなりのコストがかかるはずだ。100万円くらいでどうだろうか)も支払うのだ。よってそのコストを支払うことができない貧乏人にはその権利は与えられないとする。
そして親族(2親等まで)がいる者はその同意をとり、厳正な審査をパスした者には安楽死の権利を与えてもいいのでは、と。

※西部さんの考えに賛同している。死期を自分で決められるって、けっこう心安らかになれる。予定を立てられるし、老後のことをさほど心配しなくていい。衰える恐怖から解放されるのだ。いつでも安楽に死ねるって、心の安寧につながるのではないだろうか。

『レゾンデートル』では、一時的に動ける体にするためにこの無茶な処置をした主人公の想いを、同僚の美人女医は認め、止めることをしなかった。もう生きて帰ってこないことを知りながら。生きる屍となってベッドの上で数週間生き長らえるよりも、今、悔いのないように自分のやりたいことをやらせたほうが、主人公にとって幸せである・主人公のためになると判断したのだ。

知念さんの『レゾンデートル』を読んで、一番、印象に残ったのがこの医学的な情報だった。命は短くなるが、癌による屍状態から本当にそこまで劇的に回復する方法があるのか、と。

雑に扱われた不美人少女

『レゾンデートル』で気になった点を書いておこう。

主人公は『正義の殺人』(害のある悪人を抹殺する)を行うのだが――
主人公のターゲットとなったその中のひとりは、家族持ちの父親であった。
その時、ナイフを持ったフルフェイスメット姿の主人公と、血まみれとなった父親の悲惨な死体姿を、たまたま高校生くらいの娘が目にしてしまう。

でもこの娘は美少女ではなく、細い目と丸い鼻の、いわゆる美の基準から外れているらしい『不美人な少女』だ。

父親の死体を見て、ショックを受ける不美人少女。

不美人娘に殺害現場を目撃され逃げた主人公医師は当然、殺人を犯したことと父親を殺された娘の心を傷つけたことで、後悔の念に囚われるが――そのことを最期まで引きずることはなく、愛する美少女と愛を語り、満足して昇天されるのだ。

美少女を救うために命を投げ出す主人公であるが、血まみれの父親の死体を目にした不美人少女に救いはなくていいのか??? と思ってしまった。

この物語で唯一残念に思った点は、端役の不美人少女を雑に扱い、そのままにしてしまったことだ。

父親を殺し、不美人な娘の心を傷つけたことについての責任はまったくとらない医師主人公。
なので、そんな主人公とヒロイン美少女の最後の愛の語らいに、さほど感情移入はできなかった。ハッキリ言って「いい気なものだな」と思ってしまった。

端役の少女を不美人にしたのは、その存在をできるだけ読者に忘れてほしかったから、なんだろうな。
美少女にしたら、読者も気になるだろう。雑に扱うわけにいかなくなる。

愛を語る主人公とヒロイン美少女の裏で、トラウマに苦しんでいるに違いない不美人少女。
けど、それを気にする読者はあまりいないだろう。

ま、雑に扱われるキャラクターがどうしても気になるのじゃ。それは自分もどちらかというと雑に扱われるほうの人間だからだろうな。

主人公は満足して死に、遺された美少女も、主人公に片想いしていた美女医師も、それぞれ前を向いて歩いて行くが――

その裏で、父親を『不気味なフルフェイス姿の主人公医師』に惨殺された不美人少女は心に傷を負い、その後は恐怖に震えて引きこもりながら生きることになるのかもなあ。
なにしろ、父親は頸動脈を斬られたので、吹き出す血の量は半端ではなかっただろう。

主人公の想いは美少女だけに向けられる。勝手だなと思いつつも、人間、そんなもんかもしれない。どうでもいい人間のことは酷く傷つけても、ずっと後悔の念に引きづられることはなく、忘れてしまうものなのだろう。不美人にとっては残酷なことだ。

知念ミステリー作品について

ということで、この『レゾンデートル』はなかなかに痛い物語でもあり、ツッコミどころ満載だけど、ぐいぐい読ませられる。おもしろかった。
闘いシーンがわりと緊張感を保ってくれるし、ミステリー要素もある。

劇中、黒幕である連続殺人犯が出てくるんだけど、なかなか警察がつかまえられない。
それは、犯人が、捜査内容を把握している警察官だから、という『ありふれたもの』で、黒幕は誰なのか、途中で分かってしまうが、ミステリーってそういった単純なものでいいんじゃないかと思う。凝ってしまうと、矛盾や無理がでてきてしまうよな。

『螺旋の手術室』

そう、知念さんの作品で『螺旋の手術室』というミステリーものがある。こちらは意外な人物が犯人で、これは誰も予想できなかっただろうと思われたが、殺人の動機といい、かなり無理があった。医療が絡むトリックに、同じ医師から「ありえない」というアマゾンのレビューもあった。けど、ダレることなくぐいぐいと読ませてくれる物語だ。手術シーンから始まるのだが、その緊張感がたまらない。そのまま引き込まれてしまう。

知念さんの文章は情景描写も短いし比喩も少ないので、読みやすく分かりやすい。
テンポが良く、展開が早い。
なので、ツッコミどころ満載でも、おもしろく読めてしまう。
人間描写も単純で漫画的だけど、ドラマチックに盛り上げてくれる。

螺旋の手術室 (新潮文庫)

螺旋の手術室 (新潮文庫)

 

『あなたのための誘拐』

ほか、おすすめ知念作品には『あなたのための誘拐』がある。途中で黒幕・犯人は分かるものの、意外性はあった。んが、これも「そんな理由で殺人を犯すか??? しかも何人も」と動機に無理がある気がした(良心の欠片もない殺人犯はごくごく普通に愛されて育ち、性格が歪む要素もこれといってない)が、ぐいぐいと読ませてくれる。

ちなみに、こちらも主人公は末期癌患者。医者ではなく元警察官だけど。

あなたのための誘拐

あなたのための誘拐

 

『病棟シリーズ』

そんなヒット作品を連発している知念作品を初めて知ったのは『仮面病棟』だったっけ。こちらも犯人がなかなか分からなかった。アマゾンレビューでは『仮面病棟』は低評価が多いし、ツッコミどころ満載だけどおもしろく読んだぞ。(まあ、さすがに……ざっくりとメスで斬られて怪我していた右腕で『右のこめかみを拳銃で撃って自殺した』と警察が判断するのはどうかと思うが)

んで続編というわけじゃないけど、同じ場所=舞台で話が展開される『時限病棟』もある。知念作品の中では「病棟シリーズ」と呼ばれているようだ。

ワシの評価は『仮面病棟』>『時限病棟』だけど、どちらもサクッと読めて楽しめる。おすすめじゃ。

仮面病棟 (実業之日本社文庫)
 
時限病棟 (実業之日本社文庫)

時限病棟 (実業之日本社文庫)

 

ライトノベル作品群

また、知念さんは『天久鷹央シリーズ』などライトノベルシリーズも書いており、そちらが一番の人気作のようだが――ライトノベルが苦手なワシには合わなかった。

甦る殺人者: 天久鷹央の事件カルテ (新潮文庫nex)

甦る殺人者: 天久鷹央の事件カルテ (新潮文庫nex)

 
天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex)

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex)

 
天久鷹央の推理カルテV: 神秘のセラピスト (新潮文庫nex)
 
幻影の手術室: 天久鷹央の事件カルテ (新潮文庫nex)

幻影の手術室: 天久鷹央の事件カルテ (新潮文庫nex)

 

そして『屋上のテロリスト』『白銀の逃亡者』のほうは読むのが辛くなり最初のほうで脱落した。『神酒クリニック』も途中でやめた。

現実味がない世界を舞台としている、あるいはあまりに超人的なキャラクターが登場する『ある種ファンタジー的・ライトノベル的な知念作品』はワシの好みではなかったようだ……。

屋上のテロリスト (光文社文庫)

屋上のテロリスト (光文社文庫)

 
白銀の逃亡者 (幻冬舎文庫)

白銀の逃亡者 (幻冬舎文庫)

 

『優しい死神の飼い方』と『祈りのカルテ』

ということで、今のところ知念作品の中では『優しい死神の飼い方』が一番のおすすめかな。ファンタジー色は強いが、ライトノベルではなく、人間ドラマもしっかりしているし、ミステリー要素もあり、さほどツッコミどころはなく破綻がない。

優しい死神の飼い方 「死神」シリーズ (光文社文庫)
 
優しい死神の飼い方 (光文社文庫)

優しい死神の飼い方 (光文社文庫)

 
優しい死神の飼い方

優しい死神の飼い方

 

『優しい死神の飼い方』と同じくミステリー系ヒューマンドラマとして『祈りのカルテ』もあるけど、ワシ的には『優しい死神~』のほうに軍配。

『祈りのカルテ』はちょっと物足りないというか……。印象がうすかった。

祈りのカルテ (角川書店単行本)
 
祈りのカルテ

祈りのカルテ

 

『優しい死神の飼い方』と『黒猫の小夜曲』

そして『優しい死神の飼い方』の続編に位置するのが『黒猫の小夜曲』。『優しい死神~』が気に入った人には、こちらもおすすめ。というか『優しい死神~』を先に読んでおいたほうがいい。

『優しい死神~』の主人公は犬だが、『黒猫の小夜曲』は猫。『優しい死神~』の犬も登場して、そこそこ活躍する。

面白さとしては『優しい死神~』>『黒猫の小夜曲』。

黒幕と闘う時、『優しい死神~』のほうが主人公らが窮地にはまった感があり、手に汗握った。それに較べ『黒猫の小夜曲』はわりとあっさり解決した。

そうそう『黒猫の小夜曲』では、キャラクターらの『存在理由』『存在価値』がテーマになっており、『レゾンデートル(存在理由・存在価値)』と重なるところがあった。

黒猫の小夜曲 (光文社文庫)

黒猫の小夜曲 (光文社文庫)

 

『リアルフェイス(改貌屋)』と『レゾンデートル』との類似点

あ、そうそう「知念作品の中でライトノベル全般は合わなかった」と書いたけど、一つだけ超面白かった作品があった。

※『改貌屋』が加筆されて『リアルフェイス』というタイトルで文庫本が出るようだ。

リアルフェイス (実業之日本社文庫)

リアルフェイス (実業之日本社文庫)

 

 整形美容外科医を描いた『改貌屋』(現在は『リアルフェイス』)――いやあ、これは一気読みできて面白かった。

キャラは漫画チックでライトノベル的だけど、ミステリー的な筋立ては文芸に近い。というか主人公医師が40歳前後という設定はライトノベルじゃないよなあ。

キャラがこれほど漫画チックに描かれてなければ、文芸でいけたのでは。いや『文芸>ライトノベル』じゃないけれど、ライトノベルが苦手な人は最初から敬遠してしまうだろう。実にもったいない。

この作品はもっと評価されていいだろうに、知念作品としてはあまり話題にのぼっていない気が……。ワシとしては、人気があると言う代表作『天久鷹央シリーズ』よりもずっと面白いと思うのだけど。

改貌屋(リアルフェイス)>>>>>>>>>>>>天久鷹央シリーズ

↑うむ、これくらい差がある。(あくまでワシの主観ね)

というわけで下記・本文では『優しい死神の飼い方』を知念作品のランキングトップに挙げたが、『改貌屋』は『優しい死神の飼い方』に並ぶ。

そう、『改貌屋』はライトノベルと文芸の中間という感じの作品だ。

それにしても、この『改貌屋』の医師も『レゾンデートル』の主人公医師と同様『少したれ目気味の整った容姿』という設定。知念さん、男の垂れ目が好きなのか?

んで、主人公医師の年齢と、執筆時の知念さんの年齢が近い。(『レゾンデートル』は32歳、『改貌屋』は40歳前後)

その上、ヒロインが『あか抜けない・田舎臭いけど美人』という類似点もある。つまり知念さん自身『自分の美しさに無頓着で、女を売りにしていない、すれていない無垢な女性』が好きなんだろうな、たぶん。

『レゾンデートル』と『崩れる脳を抱きしめて』・都合のいい恋愛

崩れる脳を抱きしめて

崩れる脳を抱きしめて

 
崩れる脳を抱きしめて

崩れる脳を抱きしめて

『崩れる脳を抱きしめて』は延々と続く漫画チックなよくある恋愛シーンに辟易し、飛ばしながら読んだ。ただ、とりあえずオチは確かめておこうと思い、最後までページをめくったが、ご都合主義すぎる。かなりライトノベル的。

『レゾンデートル』のほうがぐいぐい読ませられるし、ずっと面白い。

それでもこの2作品について、恋愛要素における共通点があったので話題にしよう。

まず――主人公は医師でそこそこイケメンで武道をやっている。『レゾンデートル』は剣道。『崩れる脳~』は空手。

どちらの主人公も同僚の元恋人に好かれているが、主人公のほうは新しい女性に恋し、成就する。

で、元恋人はサバサバ系で世話好きで主人公のためにいろいろ尽くしてくれる。今でも主人公のことを想っているが、潔く身を引いてくれる。主人公にとって、とっても都合のいい女。

主人公が最終的に選ぶ新しい女は、出会ったばかりの主人公医師に対してすぐにタメ口をきく。初対面の人間に対し、距離を詰めすぎ。かといって礼をわきまえない非常識なキャラというわけでもない。

ということで、どちらも恋愛シーンおよび女性の描写についてリアリティがない。かなりライトノベル的。

それでも『レゾンデートル』はミステリー・ハードボイルド要素が高く、恋愛要素の比重は低かったため、恋愛シーンがリアリティなくても気にならなかったが――

『崩れる脳~』は恋愛ものとして捉えていい物語なので、嘘っぽさが気になり、白けてしまった。

いやあ、知念医師の描く恋愛が絡む話って……主人公は二人の美しい女性から想われ、都合のいい女は『元恋人』という設定で、主人公の新しい恋のために協力してくれ、主人公を煩わせることなく身を引いてくれる。主人公は心置きなく新しい女と結ばれる……ことが多い? いや、まだ2作品だけど。

主人公・ヒロイン設定☆医師だけど武道家

上記でも紹介したが、知念医師は総合格闘技のジムに通っているそうで、『レゾンデートル』の主人公医師は剣道をやっていたという設定だった。

他の作品では『改貌屋』のヒロイン麻酔医、および『崩れる脳を抱きしめて』の主人公研修医は空手、『祈りのカルテ』の主人公医師は柔道をしていたという設定。『祈りのカルテ』なんて柔道である必要性はどこにもなかったよなあ。

それだけに知念医師ってよっぽど格闘技・武道好きなのだなあ、と思った。お顔が写っているお写真からはそんな風に見えないけれど。案外、体に厚みがある?

知念作品・勝手にランキング

ということで、知念作品をワシなりにランク付けしてみる。あくまでもワシの好みに偏っているということでご容赦を。

『優しい死神の飼い方』=『改貌屋(リアルフェイス)』>『あなたのための誘拐』>『黒猫の小夜曲』>『仮面病棟』>『螺旋の手術室』=『レゾンデートル』>『時限病棟』>『祈りのカルテ』>>>>>>『崩れる脳を抱きしめて』

圏外は『改貌屋(リアルフェイス)』以外のライトノベル全般。(ワシがライトノベルが苦手ということもある)

知念作品と他の作家の作品

『優しい死神の飼い方』VS『神様のカルテ

 『神様のカルテ』は映画化されたり、かなり有名な作品だ。著者の夏川草介氏も医師だっけ。

独特な口調で主人公を立たせている、人間の死を扱ったドラマ、ハートフルということで『優しい死神の飼い方』と共通点があるが――

ワシの評価は『優しい死神~』>>>越えられない壁>>>『神様のカルテ』じゃ。

神様のカルテ』はまず主人公医師の独特な口調がひっかかった。人間の死を語るのに、あの口調は興ざめだ。ふざけているわけではないだろうが、ワシは鼻についた。

一方、『優しい死神~』は深刻にならず、かといって軽く扱っているわけでもなく、救いもあり、とても上手い演出だった。

ワシからしたら、なんで『神様のカルテ』の評価があれだけ高いのか分からん。『優しい死神~』のほうがずっといいのに。

というか『神様のカルテ』と較べるなら『祈りのカルテ』が上だ。

神様のカルテ 3 (小学館文庫)

神様のカルテ 3 (小学館文庫)

 
神様のカルテ3 (小学館文庫)

神様のカルテ3 (小学館文庫)

 
神様のカルテ0 (小学館文庫)

神様のカルテ0 (小学館文庫)

 
神様のカルテ0 (小学館文庫)

神様のカルテ0 (小学館文庫)

 
神様のカルテ (小学館文庫)

神様のカルテ (小学館文庫)

 
神様のカルテ (小学館文庫)

神様のカルテ (小学館文庫)

 
神様のカルテ2 (小学館文庫)

神様のカルテ2 (小学館文庫)

 
神様のカルテ2 (小学館文庫)

神様のカルテ2 (小学館文庫)

 

 『レゾンデートル』VS『とある飛空士への夜想曲

 『レゾンデートル』を読んで、犬村小六氏の『とある飛空士への夜想曲』を思い出した。けっこう似ているところがある。

そう、『とある~』の主人公は死を覚悟しつつ戦いで散り、歌姫である彼女に子どもを遺す。こちらは臭いセリフはなく、素直に感動できた。

カテゴリーはライトノベルだけど、ライトノベル苦手なワシが自信をもっておすすめできる作品だ。(ああ、ただし『とある飛空士への追憶』を読んでから『とある~夜想曲』を読まないと、面白さが半減するぞ)

ワシの評価は『とある~』>『レゾンデートル』じゃ。

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

 
とある飛空士への夜想曲 下 (ガガガ文庫)

とある飛空士への夜想曲 下 (ガガガ文庫)

 

とまあ、好き勝手に語ってきたが、これらの作品は『語らずにいられなかった=心に残った』から記事にしているのである。

その時は面白く読めても心に残らないものは、このようにわざわざ記事にしない。こういった感想文を書くのってけっこう時間をとられるしね。(しかも当記事は12700字もの長文だ)

とにかく知念作品(文芸のほう)はつかみがうまい、テンポがよくて読みやすく、一気読みできてしまう――エンタメの王道をいっているよなあ。

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