過酷!子育て心理サスペンス小説ランキング・ベスト3『誰かが見ている』『坂の途中の家』『Aではない君と』・追加『対岸の家事』
追記(2019年2月13日)
『対岸の家事』(朱野帰子)もおすすめ作品として追加。長編というよりも短編連作風。読みやすい。終盤、軽くサスペンス風要素も入っていたりするが、深刻度は低い。ハッピーエンドで読後感もいい。ただ、子育てって本当に過酷なのだな、と思わせられる。子を持つなら相当の覚悟がいる。男性にこそ読んでほしい作品。
本文にある3作品と較べると――『Aではない君と』>『誰かが見ている』=『対岸の家事』>『坂の途中の家』という感じかな。要素が違うので較べるのはナンセンスだけど。
※内容【家族のために「家事をすること」を仕事に選んだ、専業主婦の詩穂。娘とたった二人だけの、途方もなく繰り返される毎日。幸せなはずなのに、自分の選択が正しかったのか迷う彼女のまわりには、性別や立場が違っても、同じく現実に苦しむ人たちがいた。二児を抱え、自分に熱があっても休めない多忙なワーキングマザー。医者の夫との間に子どもができず、姑や患者にプレッシャーをかけられる主婦。外資系企業で働く妻の代わりに、二年間の育休をとり、1歳の娘を育てるエリート公務員。誰にも頼れず、いつしか限界を迎える彼らに、詩穂は優しく寄り添い、自分にできることを考え始める】
本文
子育ての過酷さをテーマにしたサスペンス風の小説作品から『おすすめ』を紹介しつつ、子育ての厳しさについて語ってみる。
目次じゃ!
過酷な育児・子育て
子育てサスペンス小説3選『誰かが見ている』『坂の途中の家』『Aではない君と』
一番読みやすいのが『誰かが見ている』(宮西真冬)。一気読みしてしまった。
- 作者: 宮西真冬
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/04/13
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※内容【4人の女には、それぞれ表の顔と裏の顔がある。ブログで賞賛されたいがために、虚偽の「幸せな育児生活」を書くことが止められない千夏子。年下の夫とのセックスレスに悩む結子。職場のストレスで過食に走り、恋人との結婚だけに救いを求める保育士の春花。優しい夫と娘に恵まれ円満な家庭を築いているように見える柚季。4人それぞれの視点で展開する心理サスペンス。彼女たちの夫も、恋人もまた裏の顔を持っている。もつれ、ねじれる感情の果てに待ち受ける衝撃】
同じく子育てママが主人公の心理サスペンスで話題作になったのがこちら、坂の途中の家(角田光代)であるが――
- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2016/01/07
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- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
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※内容【最愛の娘を殺した母親は、私かもしれない――。虐待事件の補充裁判員になった里沙子は、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、いつしか彼女の境遇に自らを重ねていく。社会を震撼させた乳幼児虐待事件と〈家族〉であることの光と闇に迫る心理サスペンス】
『坂の途中の家』はとにかく長い。一気読みはできず、正直、あまりにネガティブでうんざりしたところも……。読後感もあまり良くない。
アマゾンの角田光代の「坂の途中の家」のレビューでも低評価をつけている人は『育児をあまりにネガティブに捉えている点』が不快のようだ。
そして角田さんに子どもがいないことから、こんな批判もあった。
以下、アマゾンレビューより一部転載。
【子育ては大変なものだけれども、大変な部分だけを描写するのは違うように思います。結果、子育て中の私には、作中の子供にリアリティを感じられませんでしたし、子供と主人公の関係は普通ではない特殊なものとしか思えませんでした。
自分の実感ですが、自分の子供に対する愛情というのは、親に対する愛や恋人に対する愛とはその強さや質が全く違うものです。それが母性だと思います。作中にはそれが全く感じられません。
最初から最後まで、主人公は母性に欠けた極度に自信のない女で、子供への思いやりがなく、周囲の言動や行動を悪意にしか受け止められず、そんな自分を正当化するように被告の女に共感、同情し続けているように読めました。読んでいて不快でした。
失礼ながら、角田さんはお子さんがいらっしゃらないので、娘の立場でしか親子関係を見られないのだろうと感じました。どんなに子育てが大変でも、その寝顔や笑顔が親にとってどんなにいとおしいものか、ご存知ないのだろうと感じました。
ただ、これに対する反論もあったので、一部転載しておこう。
寝顔や笑顔がどんなに愛しいものでも、ある時、ある瞬間、こどもが悪魔のように思える一瞬があるのが子育てです。
子育てなんて、きれいごとを言っていられるほど簡単なものではありません。
あなたのような方がある意味、正論を振りかざして作中のような母親を追い詰めるのでしょう。
たった一人を育てているだけで、子育てのすべてがわかっているかのような言いぐさが不愉快です。
正論って人を追い詰めるよな。
いや、正論が吐ける強い人、ネガティブに捉える人に辟易する人、物事をポジティブに捉えられる人は、世間の価値観に合う『真っ当な人』なのかもしれない。社会にとっても必要な人だ。それはそれでいいのだ。
けど、そうじゃない人もいるということで――そうじゃない人にとっては、この世は生きづらい。
※ところで作家は、自分が直に経験していないことでも想像して物語を紡いでいくもの。「経験していないことは書けません」となったら、すぐにネタが尽きる。それに角田さんのこの作品については、育児経験者も「リアリティがある」と絶賛している人も多い。
母性神話に苦しめられている人の共感を誘う一方で、こういったレビューもあった。
独身女性がこれを読んだら結婚にも出産にも希望を持てなくなりそう。
子育てはそれほどに覚悟のいる大変な仕事だともいうことなのかも。
何とか折り合いをつけてハッピーエンドに持ち込んだ『誰かが見ている』でも、結婚や出産に夢が持てるような描き方はされていない。
――と、もうひとつ超弩級の作品がある。
主人公は母親ではなく父親だけど、薬丸岳氏の『Aではない君と』だけは別格。長くて重厚だけどダレることなく、最後まで一気に読ませてくれる。テーマはあまりに重いが読後感は悪くない。
が、やはり子育ての厳しさがヒシヒシと伝わる。そして子の犯した犯罪で親の生き方も大きく変えられてしまう。『子を持つリスク』についても考えさせられる。
自分はこの父親のように生きることができるのか――できない人は子を持ってはいけないのかも?
- 作者: 薬丸岳
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/07/14
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※内容【あの晩、あの電話に出ていたら。同級生の殺人容疑で十四歳の息子・翼が逮捕された。親や弁護士の問いに口を閉ざす翼は事件の直前、父親に電話をかけていた。真相は語られないまま、親子は少年審判の日を迎えるが】
↓『Aではない君へ』はこちらでも話題にした。
よって、順位をつけるなら―
1位『Aではない君と』(重厚・別格)
2位『誰かが見ている』(読みやすい・一気読み・ダレない)
3位『坂の途中の家』(少しウンザリ・読後感は良くないが考えさせられる)
ラクしてはいけない? 辛すぎる育児
子育ての厳しさがテーマとなる小説が多く出版される昨今――子育てで人生充実、幸せを感じる人もたくさんいるだろうが、やはり子育てに悩み、内心では産まなきゃよかったと後悔している人もけっこういるのかも? ただ公には声に出せない。それを言ったら周りから非難轟々、親失格どころか、人間失格扱いされるから。
けどネットの登場で匿名で愚痴をこぼせるようになった。
世間では子どもを産み育てることを尊い、素敵なこと、人間として当然ということになっているけれど、そういうことにしておかないと、産んで育てる人が少なくなってしまうからかも。
そのくせ、口では「子育て、大変だね」と言いながら、多くの人=皆が当たり前にやっているとし、内心は軽く見ている人(男性)も多い気がする。
いや、それどころかラクをしてはいけない空気すらある。子育てに手を抜くなんて、世間は決して許さないだろう。
そういえば、無痛分娩が日本ではあまり広がっていない。未だに「お腹を痛めて苦しい思いをして産んでこそ云々」の価値観が支配しているからだろう。まるでラクして産んではいけないと言っているかのよう。
↓無痛分娩について物語『これも何かの縁』でも取り上げた。
その上、最近は『女性が輝く社会』と銘打ち――
「ママも働こう、自立しよう、夫に経済的に頼っているとリスクが高い、働くのが当たり前」とし「子育てしつつフルタイムで働くことが良し」という価値観が伸してきている。
そんな中、身も心も疲れ果てている人も多い。(もちろん、専業主婦で昼間もずっと子どもと二人っきりも辛いものがあるだろう)
ただ、その価値観に縛られた生き方が自分を幸せにするのかどうかは分からない。『女性が消耗する社会』となりつつある?
何にせよ、良き家庭人となってくれる配偶者が必要だが……イクメンに疲弊する男性もいたりする。
※それについてはこちらで触れた↓
『おおかみこどもの雨と雪』の主人公・聖母な花さん
聖人ではない・普通の欲を持つ人間である親にとって『社会が良しとする子育て』(=親は子のために犠牲となり我慢するのが当然)という考えは、やっぱ過酷。
ここでふとアニメ映画『おおかみこどもの雪と雨』を思い出す。そこに登場する主人公の母・花さんは『子どもに無償の愛を注ぎ、働きづめでもヒステリーを起こすこともなく怒鳴ることもなくいつも笑顔、我慢強く、子どもが自立した後はキチンと子離れして、子どもに依存することなく何も求めない聖母』だ。
このアニメを作った細田守監督は母性本能を信じているのだろう。
花さんは日本社会が求める理想の母親像なのかも。
ただ、花さんのような生き方をしたいか? と問われて「はい」と答えられる女性っているんだろうか。ワシは嫌じゃ。
- 作者: 細田守
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/06/22
- メディア: 文庫
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過酷な子育てをテーマにした他作品を紹介
以前、ムーニーのCM『はじめて子育てするママへ贈る歌』が炎上した。
過酷なワンオペ育児――その時間が「いつか宝物になる」という言葉で締めくくられ、それは育児に携わったことがないオジサンたちの戯言とし、批判を浴びた。
日本は育児するには厳しい社会。だから、こういった『過酷育児小説』が生まれるのだろう。
- 作者: 朝比奈あすか
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※内容【仕事に生きてきた洋美と専業主婦のリラは、乳児の予防接種会場で再会。頼もしいママ友ができたと好ましく思っていたが、こども同士の諍いをきっかけに、悩み苦しみ傷つき葛藤する。やられるばかりの息子が歯がゆい、乱暴な息子を愛せない。女たちの心の叫びを描く】
- 作者: 椰月美智子
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※内容【同じ名前の男の子を育てる3人の母親たち。愛する我が子に手を上げたのは誰か―。どこにでもある家庭の光と闇を描いた、衝撃の物語。 辛いことも多いけど、幸せな家庭のはずだった。しかし、些細なことがきっかけで徐々にその生活が崩れていく。無意識に子どもに向いてしまう苛立ちと怒り。その行き着く果ては……】
↓上記2作品は『子育て関連おすすめ小説』としてここでも触れた。
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