これも何かの縁

ピアノとマンガの道を歩んできたハヤシのエッセイ・イラスト・物語集

『別冊図書館戦争2』☆地味で目立たない・惨めに救いなしで終わるキャラ

遅まきながら『図書館戦争シリーズ』(有川浩)を読んだ。
ノリがよく、キャラでひっぱる漫画みたいな物語は好きだし、思った以上におもしろかった。

それでも『別冊図書館戦争2』だけ、ひっかかった。そのことについて語ろう。

目次じゃ!

以下ネタバレ注意。

『別冊図書館戦争2』地味な人間はダメ?

有川浩氏は地味な人が嫌い?

この『別冊図書館戦争2』に登場する『水島さん』が、あまりにも惨めで、かわいそうになった。
椰月美智子氏の『恋愛小説』に出てくる気持ち悪い描写をされたオタク女子『ジェロさん』とリンクした。

※なお椰月美智子氏の『恋愛小説』についてのあらすじ・書評はこちら↓

物語上では『水島さん』も『ジェロさん』もいいところが一つもなく、読者からも共感を得られない描き方がされている。
そう、作者の『キャラへの愛』が全く感じられないキャラだった。

水島さんやジェロさんとリンクした性質を持つワシはやっぱり嫌な気分になった^^;

水島さんは、仕事もいまひとつで目立たない地味キャラ。「すみません」が口癖で卑屈なところがあり、当然、魅力もなく、友だちも少ない。

ジェロさんは、我が道を行く空気を読まないオタク女子。デブスでおしゃれに疎く、センスが悪い。で、皆から陰で軽く見られている=馬鹿にされている。

水島さんも空気読めない系。結果、相手を本当の意味で気遣えない。
……やはり場の空気や相手の気持ちを読めない者はダメなのか~。

そう、水島さんとジェロさんは現代における『いじめられっ子』の性質(人から疎まれる性格)を持つ。

が、水島さん、なぜか強気な時は強気だ。
(ジェロさんに限ってはずっと強気だった)

なので作者は遠慮なく、その『強気となった疎まれキャラ』を悪しざまに描く。

神であり親でもある作者は、その疎まれキャラに一切の幸せを与えず、読者からも全く共感を得られない描き方をし、いいところがひとつもない痛いキャラで終わらせる。主要キャラなのに、だ。

それが、ワシには作者がキャラをイジメているように見えた。

作者は物語の世界においては『神様』であり『キャラを生んだ親』でもある圧倒的強者だ。

『別冊図書館戦争2』あらすじ

『別冊図書館戦争2』の内容を簡単に説明しよう。

『地味で目立たない水島さん』は、イケメン・エリートの手塚君に恋をする。が、全く相手にされない。
手塚君が好きなのは『美人で頭が良く、皆からも注目の的の柴崎さん』だ。

そこで、嫉妬にかられたのか水島さんは柴崎さんを陥れる。
ある男と手を組み、柴崎さんを襲わせる。

が、仲間の活躍で柴崎さんは助かり、水島さんは警察に捕まり、その後、水島さんは反省する様子も見せず、落ちるところまで落ちる。

一方の柴崎さんは手塚と結ばれ、幸せを手に入れ、皆から祝福される。

なお、ここで主人公として登場する手塚と柴崎は、容姿も頭も良く、仕事もできて、皆からも注目の的で、異性から憧れられモテまくる、最上位にいる――つまり『完全な勝ち組キャラ』だ。

対する水島さんはひとつも取り得がない『最下層キャラ』と言っていいだろう。

そんな勝ち組キャラが、水島さんに投げつける言葉が、いじめっ子のような感じで、ドキッとした。

さすがにこれはないな、と思ったのが、手塚君の水島さんに対する言葉。
あんた、気持ち悪い

男が、女に言う言葉としては、かなりキツイ。(ちなみにこの時、手塚君はまだ水島さんが犯人だとは知らない)

『恋愛小説』のジェロさんも、美人主人公・美緒から散々、気持ち悪がられたっけ。
※もちろん、作者はそう思わせるようにキャラを仕立てていったわけだけど。

いじめられっ子・地味な子は『別冊図書館戦争2』は読むな

この『別冊図書館戦争2』は、これといった取り柄もなくランクが下位でいじめられっこ性質を持つ者にとってキツイ話だと思う。どうしたって水島さんに己をリンクさせてしまう部分があるだろうから。

そして水島さんは嫌われキャラのまま、惨めに終わる。勝ち組キャラの手塚と柴崎がくっつくための単なる『当て馬キャラ』『捨てキャラ』だ。

ひとつも良いところがないキャラ――そしてそんな性格に至る過程は描かれていないので、誰からも共感や同情を得られず、単なる卑怯な犯罪者で終了。

主人公たちとの和解もなく、読者からも「いい気味だ」と思われる嫌われキャラ。
悪役としての魅力もない。

そう、普通、悪役キャラは『悪役なりの魅力』があるものだ。
性格はともかく頭がいいとか、特殊な能力があるとか、容姿はいいとか、部下を引っ張りリーダーシップが取れているとか、悪を行うに至る理由が愛する誰かのためとか、あるいはそれに至る不幸な生い立ちがある、あるいは自分が犯した罪を悔いるなど、わずかでも読者の共感を得られるように――作者は通常、そういう悪役を作る。何と言っても『主要キャラ』なのだから。

魅力がひとつもない負けキャラで、読者からの共感が全く得られず、無残な結末を迎える悪役がいたとしたら――おそらく作者は、その性格や性質をもつ人間が嫌いなのだ。

図書館戦争の水島さん』でいえば、容姿も地味でおとなしく、頭が良くなく、卑屈なので周囲をイラつかせる――作者の有川浩氏はそんな女性が大嫌いなのかもしれない。
だから、その性格が形成されるに至った理由も説明されないという雑な描写になってしまったのだろう。

全く魅力がない負け組要素満載なチンケな『水島さん』は、神であり親でもある作者・有川浩氏から、そういう扱いを受けたキャラなのだ。

それがよく表れた『水島さんについて最後に書かれた一文』がある。
※以下、『別冊図書館戦争2』より転載。

地味で目立たない水島のスキャンダルに寮は一時期湧き上がったが、本人が懲戒免職を受けているうえ、地味で目立たない分だけ出てくる話題も乏しく、すぐに鎮静化した。

そう【地味で目立たない】を2回繰り返し、水島さんがいかに『チンケな悪役』だったかが表されている。

なんだか水島さんがかわいそうに思えてしまった。
地味で目立たないって、そんなに見下されることか?

ワシからすれば、作者という神から愛され、世間でいう『勝ち組要素』を持つ手塚と柴崎の強者っぷりが、いじめっ子に見えてしまった。(もちろん彼らは物語上では被害者なのだけど)

一番印象に残った場面は――「すみません」を繰り返し、敬語を使う水島さんを柴崎さんがウザがるところだ。
学生時代、地味で鈍くさくトロかったワシもまさにそんな感じだったから。きっと、キラキラ女子やしっかり女子から、ああ思われていたんだろうなと痛い気分に浸った。

ワシと同じ思いを抱いたのであろう人のレビューを紹介しておこう。
以下、編集転載。

読んでいて辛かったです。
手塚と柴崎の話を読んでいるうちにだんだんと嫌な気持ちになりました。
この小説に出てくるようなスーパーな人達はこの世の中にはなかなか存在しません。

柴崎と水島の同室開始以降の、柴崎の「水島が苦手」という考え方や態度についての描写。
話が進んでからの手塚の水島に対する言葉等々。

多分自分が柴崎と同室になったら、水島と同じ態度になってしまうかもしれないと思いました。

柴崎の持っている揺るぎない自信は、時として周囲を傷つけると柴崎自身わかっていながら、どうしてあのような態度になってしまうのだろう、読んでいるうちに大好きだった郁でさえ鼻につくようになってしまいました。

もちろん水島は歪んでいて、彼女の犯罪は許されないものです。絶対にやってはいけないことです。
私は犯罪は犯しません。

でも私の中に今までの巻では感じなかった、郁や柴崎に対する僻みと水島への同情のような気持ちが芽生えていました。
郁と堂上、小牧と毬江等々みんながみんな幸せで素敵で。

柴崎と手塚を幸せにするために、ここまでの状況が必要だったのでしょうか。
最後の最後に嫌な気持ちになり、今現在は読もうと思って買っていた有川先生の他の本も読む気持ちになれなくなってしまいました。

犯人(水島)の描写も最終段階になるまで、ただ大人しく地味としか伝わってこず、周りが思い切り嫌悪感で迎えているのが不自然で、逆に柴崎が嫌ないじめっ子みたいな印象に。

ブスキャラを扱う男性作家と女性作家の違い

容姿が劣る女キャラに厳しい女性作家

そういえば『図書館戦争』では、相思相愛で幸せを手にするキャラ(=郁、堂上、柴崎、手塚、小牧、毬江)の容姿はいいという設定。

対して最低で救いのない終わり方をする水島さんの容姿は地味=よくないという設定に、作者の有川浩氏はルッキズムの人なのだなと思ってしまった。

要するに『別冊図書館戦争2』は、容姿の劣った負け組女が身の程をわきまえず容姿がいい勝ち組にちょっかいを出して不幸になる――というお話だ。

男性作家は、主要キャラに『容姿が劣る女性』を持ってこない。端役、雑魚キャラとしてなら登場するけれどね。
つまり、そういうブスキャラを最初から出さない。容姿が劣る女性キャラは主要キャラにするほど興味持てないし、考えたくもないのかもしれない。

ちなみに容姿が劣る男性キャラならありうる。主役級もあったりする。
けど女性であれば主役級は美人。悪役も美人だ。美人しか出さない。

対して女性作家は、もちろん美人をよく登場させるけど、たまに主要キャラに容姿が劣る女性を登場させる。(もち、ケースとしては少ないけど)
そして『容姿がさえないキャラ・ブスキャラ』を、なぜか性格を強気にしたり、皆から共感を得られない・嫌われるような行為をさせる。

そこに共通するのは、容姿が冴えないキャラへの遠慮のない蔑視・侮蔑・嘲笑だ。

そう、女性作家のほうは、容姿の劣るキャラを遠慮なく哂いものにしたり、もしくは救いなく不幸に陥れ、誰からも愛されない話にしたりすることがけっこうあるかも。 

女性作家の方がけっこうブスに厳しいのだ。いや、非情だ。ややもすると人間扱いしない。それが有川浩氏の『別冊図書館戦争2の水島さん』、椰月美智子氏の『恋愛小説のジェロさん』によく現れている。

ブスをヒロインとして丁寧に描写した里見蘭の小説

男性作家は主要キャラに美人しか登場させないと書いたけど、例外があった。

里見蘭の『藍のエチュード』および『藍のエチュード』を大幅に改稿したという『君が描く空』だ。

主人公は、美人お嬢さんを振り、無愛想なブスを選ぶ。まあ、ブスと言うよりも『オシャレに無頓着な地味女』というほうが適切かな。ただこれは『藍のエチュード』での設定だ。表紙を見れば分かるが、改稿したという『君の描く空』のほうは金髪だし、地味女という感じではなさそうだ。

ま、それはともかくとして、ブスの画家としての才能に魅かれる主人公。だがブスには哀しい過去があり……といった感じで、ブスキャラがヒロインとして扱われ、丁寧に描かれている。けっこう感動的な青春ストーリー。おすすめじゃ。

ちなみにワシは『藍のエチュード』のほうを読んだ。大幅改稿されたという『君が描く空』は未読であり、こちらのヒロインはブスでも地味でもなく『単に無愛想な女』という設定になっているかもしれない。表紙を見るとね……。

君が描く空 - 帝都芸大剣道部 (中公文庫)

君が描く空 - 帝都芸大剣道部 (中公文庫)

 
君が描く空 帝都芸大剣道部 (中公文庫)

君が描く空 帝都芸大剣道部 (中公文庫)

藍のエチュード

藍のエチュード

※内容【芸術家の卵が集う帝都藝術大学剣道部。個性豊かなアート系剣士たちの恋と友情、そして夢が交錯する。芸術×武士道青春ストーリー】

ブスを人間扱いした朝比奈あすかの『自画像』

ブスキャラを人間扱いしない女性作家がいる中、朝比奈あすか氏の『自画像』は良かった。

こちらも容姿が冴えない女キャラが主役級で2人ほど登場するが、周囲からいじめられる場面が多々あり、劣等感に苛まれる心理描写も丁寧に描かれる。なので同情・共感できる部分がある。少なくとも『全くいいところなし』という描き方はしていない。

自画像

自画像

自画像 (双葉文庫)

自画像 (双葉文庫)

自画像 (双葉文庫)

自画像 (双葉文庫)

※なお『自画像』については、こちらの記事でも触れた↓

やっぱり、キャラをいかに丁寧に描くか、だよなあ。
逆に、丁寧に描く気がどうしても起きなければ、最初から登場させないほうがいいのかも。

というか、作者が『嫌いなタイプ』の人間を物語上に登場させると、いいところ全くなし・魅力なし・救いなし・読者から共感されない嫌われキャラに描写されてしまうものかもしれない……。

そこで『これも何かの縁』番外編よりコンプレックスをテーマに自分を救っていく物語・連作3編を紹介。

ババア、負け組、負け犬、非モテ、デブス、ブサメン、非リア充、童貞、処女、オタク、不良債権産廃、引きこもり、非正規、無職、未婚、貧困、キモい、気持ち悪い、ばい菌、残念、劣化、オワコン――見下しを込めたそんな言葉が躍る世の中。

人を品定めし、ランク付けをし、馬鹿にしたり、脅したり、叩いたり、哂い、見下すことが大好きな底意地悪い社会とは戦わずに、いかに自分を守っていくか――

それが、自分が書く物語の一番のテーマでもある。
できるだけご都合主義を排し、ちょっとした救いを見つけてみたい。

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