創作系の人、必見!『とある飛空士への夜想曲』
前回『キャラの死☆切ない系の物語を紹介』でも取り上げたけど――改めて犬村小六の『とある飛空士への夜想曲』について語る。
目次じゃ!
『とある飛空士への夜想曲』について語る
前段階の物語『とある飛空士への追憶』
とその前に――知らない人は、まず先に『とある飛空士への追憶』から読んでほしい。
『~夜想曲』は『~追憶』からつながっているし、『~追憶』を読んでないと最初の方の話は『?』かもしれない。ラスト近くのライバルとの一騎打ちも『~追憶』を読んでいないと感動は半減する。なにせ、そのライバルが『~追憶』の主人公なのだから。
どちらが勝つのか、それはもう読んでみてのお楽しみ。どっちが勝ってもおかしくない戦闘機乗りの熱い物語だ。
- 作者: 犬村小六
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/08/09
- メディア: 単行本
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『~追憶』は単行本と文庫本の2種類ある。
単行本のほうが新しく改稿されており、『~夜想曲』へのつながりを意識した構成になっているので、こちらをおすすめする。
さて、前置きはこれくらいにして本題に入ろう。
『とある~追憶』『とある~夜想曲』のここがすごい!
『~夜想曲』『~追憶』は、人によっては「ベタな展開」「よくあるパターン、よくある展開」と言うだろうけど、ベタな展開・先が見えてしまう話で感動させるからこそ、すごいのだ。
この2作を読むと、物語創作において「どんでん返しは必要ない」「先が読めても別にかまわない」と思ってしまう。
どんでん返しを狙って作っても、かえって物語に無理が出てきたり、ご都合主義になることもある。ならばキャラをじっくり描き、共感させるほうがいい。読み手にキャラを応援させたい気持ちにさせるのじゃ。
が、それをさらに感動の域まで持っていくのは、なかなか難しい……。
では、ここから先はネタバレありで、熱く語っていく。
これから『~追憶』『~夜想曲』を読むつもりの方はここで引き返すのじゃ。
見ちゃダメ。
「ベタな展開で先が読める」と言っても、『とある~』がすごいのは、こういうことだ。
『~追憶』では――「主人公とヒロインの二人は別れることになるんだろうな、でも一緒になれたらいいよね、一緒になれないのかなあ」と読み進め、んでラストで「ああ、やっぱり……」と思う。けれど「ひょっとして、どんでん返しがあるのでは」と、最後まで引っ張っていってくれる。
『~夜想曲』も同様――「主人公、死ぬんだろうな、でも生きてほしいよね。生き残らないかなあ。この展開では無理があるかもしれないが」と読み進め、んでラストで「ああ、やっぱり……」と思う。でも、だからこそ「どんでん返しがあるといいんだけど」と、最後まで引っ張ってくれる。
実は『~夜想曲』のほうは、百田尚樹の『永遠のゼロ』のライトノベル版とも言われている……。
そう『~夜想曲』は特攻の話でもある。が『永遠のゼロ』と違って、ライバルとの闘いや恋が描かれており、物語の内容は『永遠のゼロ』とはだいぶ違う。
じゃあ『~夜想曲』と『永遠のゼロ』、どっちが面白いかと言うと――漫画的なノリの話も大好きなワシは『夜想曲』のほうに軍配を上げる。『永遠のゼロ』ももちろん良かったんだけど。
『~夜想曲』は今まで読んだライトノベルの中でダントツ。感動の域まで行ったのは今のところ、この『夜想曲』および『追憶』しかない。
んで『~夜想曲』『~追憶』は、ライトノベルによくある『萌え』『ツンデレ』も抑えてある。女性キャラはヒロイン一人のみ。
『~夜想曲』と『~追憶』は、ライトノベルと小説の中間に位置する『大人が読めるライトノベル』と言っていいだろう。
それぞれのヒロインの結末・どっちが幸せ?
そうそう、アマゾンレビューにこんなことが書いてあったっけ。
「女にとっては、ファナとユキ、どちらが幸せなんだろう?」と。
説明すると――
☆ファナは『~追憶』のヒロイン。
☆ユキは『~夜想曲』のヒロイン。
ファナの場合――好きな男とはプラトニックラブまで。その後、お別れし、結ばれることはない。
ただし愛する男は生きている。きっと、どこかで幸せに暮らしているに違いない、そして、またいつか会えるかもしれない、という余地を残させてくれるケース。
ユキの場合――好きな男と結ばれ、男の子どもを手に入れる。しかし愛する男は死んでしまう。もう二度と会えない。
もし、どっちかの運命を選べと言われたら……女にとってはどっちがいいんだろうな。
戦争賛美?
『とある飛空士への夜想曲』は、太平洋戦争をモチーフにしている。
ただ、特攻する主人公・千々石を無駄死・犬死にさせていない。主人公・千々石の特攻は戦局を変え、終戦へのきっかけをつくった『意味のある死』にしている。
そんなわけで主人公・千々石の生きざまがカッコよく描かれており、国のために戦うことや特攻を全否定していない。戦争が悲惨であることは描かれ、戦争賛美しているわけではないのだが……。
劇中『散華』という言葉も使われていたり、特攻(死)を怖がったり、心の迷いを見せるキャラが一人も描かれなかったのは、ひっかかるといえば、ひっかかる。けど、ページの都合上、そんなシーンを描く余裕はなかっただろう。
主人公はじめ友人や部下のほとんどが戦死してしまい、「生き残ることを考えてほしい」というヒロインのセリフが切ない。
端役兵士でいいから、特攻することを躊躇したり、迷ったりするシーンを描いていれば、戦争ものドラマとしてリべサヨも納得、100点満点だったかもしれない。
が、それがないため「戦争美化、特攻賛美」と突き上げられても仕方ない部分もあるかも……。
ヒロインについて・気になった点
手放しで褒めてばかりでは書評にならないので、些細なことだけど、気になったところを述べよう。
12歳の時のヒロイン・ユキは「大人な振る舞い」をし、とてもできた少女だった。けど20歳の時は、主人公・千々石に対し「バカバカバ~カ」と子どもっぽいセリフを口にする。ここにちょっくら違和感を持った。
「バカバカバ~カ」と口にする20歳……う~ん、無邪気というのとは、また違う気がする。「バカ……」の一言でいいじゃんか。
とは言うものの、全体的には共感、感情移入できるし、いいキャラクターだと思う。最後のほうはやはり切ないしね。
ラノベの自由度
『~追憶』『~夜想曲』では、空母・戦艦が空を飛ぶ。
そう、あのような重いものを空に浮かべることができる技術を持っているのに――
『追憶』では、皇妃候補の姫=ヒロイン・ファナが馬車に乗っていたり(トップクラスの大金持ちが馬車を使っているなら、自動車はない? 少なくとも一般的に普及はしてないようだ)――
『夜想曲』では少年・千々石は炭鉱で働いている。つまり一般社会では石炭を使っており、レコードは蓄音機、エアコンはなく扇風機だ。
水素電池によって戦闘機や空母は空を飛ぶことができるらしいが、地上の一般社会の、ほかの技術はかなり前時代的だが……
ま、こういった世界観については、ファンタジー要素の強い架空世界ということで、さほど気にならない。よくよく考えてみれば、ひっかかりを覚える程度。
ラノベはそれだけ『自由な設定』であっていいのだ。一般の小説に較べ、リアリティが多少なくても許されるし、気にならない。
「小説がライトノベルより上だ」というのではなく、ライトノベルは「より自由に物語を作れる漫画に近いジャンル」と捉えている。
それなのに実際は小説よりも、そして漫画よりも、ラノベは縛りが厳しい気がする。たいてい10代~20代読者向けとなっており、読者層は漫画より狭そう。漫画はいろんな年齢層をターゲットとするコミック誌があり、30代でも40代でも50代でも読める作品があるのに。
男性向けのラノベの場合「女の子キャラは複数。萌えがないとダメ。ツンデレ、お姉さま、綾波レイ型など定型キャラがそろっていることが望ましく、主人公は10代、どんなに歳食っていても大学生まで」という感じ。
ジャンルはファンタジーもしくはSF、そして恋愛ものがほとんど。内容も似たり寄ったりという印象。
この縛りがあるからこそ、一般の人から『小説>ライトノベル』と思われる一因になっているのでは。
ワシも、ライトノベル風の少女たち(幼さを演出したロリータ、失礼な言動のツンデレ、お姉さま、無表情の綾波レイ型など)類型キャラに感情移入や共感することはほとんどなく、物語に入り込めない。この手の少女は『ハルヒ』『エヴァンゲリオン』で、もうお腹いっぱい。
ただ、この手のキャラは魅力あるからこそ、あちこちで使われるのだろう。
戦闘好きで強気でちょっと自分勝手で誇り高い千々石は、ドラゴンボールの『ベジータ風』であり、これだって少年漫画の世界ではよくいるキャラだけど、この手のキャラは「もう十分だ。飽きた」とはならない。
ワシがいつまでも『ベジータ型』が好きなように、『ツンデレ型、無表情・綾波レイ型、ロリータ型』キャラが好きな人も多いのだろうな。
……けど千々石は、ベジータよりは素直だし、お礼も言うし、ベジータよりも『大人』だけどね。
この『~夜想曲』のように、小説とライトノベルの境界線上に位置する作品はほかにもあるけれど、そういう作品がもっと増えてほしい。
小説とライトノベルの境界線がなくなっていけばいいのに、と思っている。
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